土地から新築

土地から新築 アナザーストーリー

プロローグ

私の名前は武志。商社勤めのサラリーマンだ。

 

若い頃は仕事が好きで、日々の成長を実感できていた。

 

初めて商談を成立させた時の達成感と、その晩に飲んだビールの味は今でも忘れられない。

 

ただ、いつからだろう?

 

仕事を「こなす」ようになり、一日があっという間に過ぎるようになっていったのは。

 

歳をとるほど、管理や調整といった仕事が多くなっていく。

 

「責任」や「裁量」が求められる仕事と言えば聞こえはいいが、これは私にしかできない仕事なのだろうか?

 

仕事で成果を出し、出世すればするほど、誰でもできるような仕事を与えられていく。

 

その仕事をこなすために必要なのは「ポスト」であり「人」ではない。

 

その事にようやく気づき、自席で深くため息をついていると、同期の小林からメールがあった。

 

「今夜飲まないか?」

 

突然の誘いだ。19時。

 

いきつけの居酒屋「のんでこ」に向かった。

 

青天の霹靂

「のんでこ」に着くと、小林が先に席に座っていた。

 

「珍しいな?お前が誘うなんて」

 

小林は職場の飲み会には、滅多に顔を出さない。

 

「俺、今月末で退職するんだ」

 

なるほどな。転職か。確かに年齢的には最後のタイミングかもしれない。

 

「どこに転職するんだ?」

 

「いや、転職はしない。実はな・・・」

 

その後、とつとつと語り始めた小林の話は、まさに青天の霹靂だった・・・

活きる喜び

小林の話を聞いてからというもの、不動産投資関連の書籍を貪り読み、無料、有料問わず、様々なセミナーに参加した。

 

築古、築浅、新築、木造、鉄骨、RC、地方、都心。様々な不動産投資があることがわかった。

 

2019年3月。時間はかかったが、ようやく投資方針を決める事にした。

 

選択したのは「土地から新築アパートを建てる」という方法だ。

 

理由は諸々あるが、同期の小林にその経験があり、アドバイスをもらえる事が大きい。

 

スルガ銀行の問題で融資情勢が厳しいと言われる中、地元の地銀に融資相談をしたところ、好感触を得る事ができた。

 

会社に忠節を尽くしたが故に、浪費する時間もなく、貯め続けた給与により資産はそれなりにはあった。

 

サラリーマンとしての歩んできた人生。そして築き上げてきた信用が活きることが、ことさら嬉しかった。

 

時間の猶予

小林に土地探しのコツを教えてもらい、めぼしい土地を見つけるも、他の業者や投資家に先をこされる日々が続いていく。

 

サラリーマンをやりながらだと、スピード勝負では不利だ。

 

そんな中、相場より若干高いものの、条件の良い土地を見つける事ができた。

 

2019年6月。繁忙期の竣工を見据えると、これが今年で最後のチャンスかもしれない。

 

土地情報を建設会社に連携し、建築プランと見積を依頼したところ、高度斜線の影響で想像よりも小さいアパートになってしまった。

 

売出価格は4480万円だが、目標の収益ラインを達成するためには、700万円の大幅指値が必要だ。

 

「高値で売れ残っている土地」というわけだ。

 

都合の良い事に、売り出されてからちょうど3ヶ月。もう1段、値段を落とす判断タイミングも近いだろう。

 

早速、仲介業者に700万円の指値が可能かと確認。

 

無理だと即答されたが、粘り強く交渉したところ、売主にかけあってくれる事となった。

 

数日後、仲介業者から電話があり、500万円なら指値が可能との回答があり、眉がピクリと動いた。

 

検討するから、2週間、時間がほしい旨を伝え、電話を切った。

 

多幸感

収益ラインを達成するため、会社の有給・半休を駆使し、建設会社と建築プランを改良させるための打ち合わせを幾重にも行った。

 

結果的に500万円の指値でも収益ラインが達成しそうなプランが建設会社から提示された時には、この土地に運命めいたものを感じたものだ。

 

3980万円で買付申込書を仲介へ送った日。仕事帰りに現地に向かい更地になっている土地を見て、妙に納得したのを覚えている。

 

帰り際に立ち寄った居酒屋で飲んだビールは、ことのほか美味しかったが、この味には覚えがある。

 

そうだ。商社マンとして始めて商談を成立させた日の夜に飲んだ、あのビールの味だ。

 

帰宅し、何とも言えない多幸感に包まれながら、深い眠りに落ちた。

 

押し問答

翌日、仲介からの電話に耳を疑った。

 

「売主さんが、やっぱり4480万円でないと売らないと言ってきてですね・・・」

 

売主に欲が出てきたか?

 

憤慨するも、詳しく聞くと売主本人ではなく、売主の息子が3980万円での売却にストップをかけてきたという。

 

さすがに、ここまでの労力をかけて「はいそうですか」と引き下がるわけにはいかない。

 

楽観的な収益計算であれば、ギリギリ4280万円ならいけそうだ。

 

仲介業者に感触を聞くと、4280万円なら、さすがに承諾するだろうとの事で、改めて買付申込書を送った。

 

畜生

2日後の仲介からの電話には、さすがに悪夢を見ているのかと頬をつねった。

 

「売主さんは、4480万円でないと絶対売れないと言ってきています」

 

畜生。。。

 

小さく呟く。

 

話を聞くと、黒幕はやはり売主の息子。どうやら売却した金を元手に不動産投資を始めたいため、値下げをしたくないと言っているようだ。

 

親の資産をアテにして不動産投資をしたいというドラ息子の顔を勝手に想像し、その顔が憎たらしくて目の前のテーブルを激しく叩く。

 

これで収益ラインの達成は不可能になった。

 

しかし、、、しかしだ。

 

これを逃すと、次の繁忙期まで1年待たないといけない。そして、その頃に今と同じように融資がひけるとも限らない。

 

断腸の思いで、4480万円での購入をする事を仲介に伝えた1時間後、仲介から電話があった。

 

「売主の息子が4980万円でないと売れないと言っているようです。もう頭がおかしいとしか思えません」

 

絶句とはまさにこの事だ。頭では無意識にも土地値が4980万円となった時の収益計算をしようとするも、追い打ちをかけるような仲介の言葉に、私の思考は完全に止まってしまった。

 

「売主さん自身も板挟みになって精神的に疲弊しているようで、今回の土地は売却を取り下げたいとの事でした。。。」

 

エピローグ

YOLO!ひーやんです。

 

今回は土地から新築のアナザーストーリーをお送りしました。

 

事実に基づいた「フィクション」ですが、いかがだったでしょうか?

 

武志さん(仮称)の話を聞いて、私自身の憤慨した気持ちをどこかに吐き出したく、こういう形でブログに記載させて頂きました。

 

ちなみに、武志さんの売却取りやめの話を聞いたのは、日付で言うと7月15日ですが、本日(7月20日)、次の土地を見つけて、来週売買契約に臨む事になったと報告がありました\(^o^)/

 

しかも、今回取り上げたドラ息子物件よりも、高い収益性を達成する見込みとの嬉しい報告です。

※ドラ息子は当てにしていた親の資産が手に入らずにザマァ見ろって感じですわ。

 

ただ、武志さんが5日足らずで見事に次の物件を捉えることができたのは「はじめからない土地」を追いかけ、検討した事による「経験」が活きたのだと思います。

 

武志さんの土地から新築チャレンジ。

 

無事、成就する事を心からお祈りしています(^_-)

 

武志のその後についてはこちら



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